草加市のラ・クレアシオンのブログ
2025年5月3日
浅草・国際通り。人の波が絶えぬこの通りの一角に、「ステーキハウス松波」は、ひっそりとその扉を構えている。観光地の喧騒を一歩で切り離すように、店内は重厚な静けさに満ち、わずかに香る肉の匂いと炭の気配が、これから始まる一皿を予感させる。
供されるのは、昼の時間とは思えぬほどに優雅なステーキ・ランチ。選び抜かれた国産サーロインが、熟練の手で火に掛けられ、表面にはきめ細かな焼き目が浮かび上がる。脂は音もなく溶け、赤身の奥深い旨みと溶け合って、まるで一つの楽章のように味わいを紡ぎ出す。
撮影にあたっては、ストロボの光を慎重にあてがった。窓からの自然光をあえて閉ざし、人工の光で陰影を設計する。肉の表面に浮かぶ艶、刃を入れる寸前の張り詰めた緊張感、グリル跡の陰が落とす彫刻のような凹凸。それらを一枚の写真に封じ込めるため、光を探る時間はまるで静かな儀式のようだった。
そして、その光の中で際立つのは、焼き手の所作である。炭火に身を預けるように肉をあやし、その表情を見極める眼差しは真剣そのもの。焼き上がる寸前、火と肉とが交わる一瞬に、思わず息を呑んだ。
皿の上には過剰な装飾はない。添えられるのは、グリルされた季節の野菜と、カリリと香ばしいガーリックチップ。沈黙を守るそれらの脇役が、肉の存在をより鮮明に浮かび上がらせる。
浅草という古き街に、こんなにも静かで、そして熱いステーキの時間があるとは。光と火の交差点で出会った一皿は、今も胸の奥でじんわりと、余韻を放ち続けている。
店長:平野慎一
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