草加市のラ・クレアシオンのブログ
2025年11月26日
西麻布の「いちのや」を訪れると、ふと空気が澄むような感覚に包まれる。店先に漂う香ばしい気配は控えめで、しかし確かに、丁寧な仕事が積み重ねられてきた時間の深さを伝えてくれる。この日は、その代表格である鰻重を、イメージカットとして撮影させていただいた。
今回の撮影では、鰻重の器全体を追うのではなく、うなぎそのものに静かに寄り添う構図を選んだ。寄りで見る鰻は、艶やかな表情を過度に主張することなく、落ち着いた呼吸で佇んでいる。皮のわずかな起伏、タレが淡く光を拾う瞬き、身の柔らかなふくらみ。その一つひとつが、静謐さの中で豊かな物語を宿していた。
光は、柔らかく。
強い照明では料理の奥行きが平らになってしまう。いちのやの鰻重が持つしっとりとした佇まいを損なわないよう、光をそっと置くように調整した。すると、鰻の表面に微かな陰影が生まれ、料理が本来持つ静かな美しさがゆっくりと立ち上がってくる。
カメラ越しに見つめていると、鰻がふと静かな温度を返してくるようだった。蒸しと焼きが折り重なった柔らかい息づかいが、静かな画面の中に溶け込んでいく。寄りの撮影は、その息づかいをそっと受け止める行為でもある。
西麻布いちのやの鰻重は、派手さとは対極にある美しさを持っている。凛としていながら、決してとがらず、淡い光の中でしっとりと輝く。
今回の撮影は、その静かな輝きを一枚に落とし込むための、澄んだ時間であった。
店長:平野慎一
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