草加市のラ・クレアシオンのブログ
2025年9月9日
千葉県佐原の「オーベルジュ・ド・マノワール吉庭」。緑に抱かれた館の一室で、私はひと皿の上に広がる宇宙と向き合った。そこにあったのは、フランス・Kaviariの「TRANSMONTANUS」。漆黒の粒は、夜の湖面に浮かぶ月影のように、静かに、しかし確かな輝きを放っていた。
キャビアは不思議だ。ひと粒の中に、海の深みと川の記憶を封じ込めている。口にすれば、微細な塩の煌めきとともに、長い旅をしてきた命の軌跡が解けていく。だが私の役割は味わうことではない。その瞬間を光で描きとめ、写真というもうひとつの余韻へと変えることだ。
ストロボの光を斜めにあて、艶やかな表情をすくい上げる。影と光が交わる一瞬、黒真珠の表面にかすかな呼吸を見た気がした。無数の粒が寄り添い合い、沈黙のなかで豊饒を語る。シャッターを切るたび、皿の上の世界が静かに震え、こちらを覗き返してくる。
佐原の空気は澄んでいて、撮影のひとときはまるで時間が止まったかのようだった。光と闇の間に立ち現れるキャビアの詩。その黒き真珠を写しとめることができたのは、ひとりの料理写真家として、忘れ得ぬ瞬間である。
店長:平野慎一
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