草加市のラ・クレアシオンのブログ
2025年6月11日
音のない厨房で、肉が焼かれていた。茨城の、とある名もなきイタリアン。その場所でメニュー撮影を依頼された日、私は“皿の中の静謐”に出会った。
供されたのは、常陸牛のタリアータ。炎の記憶をまとったその切り身は、まるで呼吸をしているかのように、柔らかく、艶やかだった。ナイフが入ると、ゆるやかに開く断面。中心には、ごく淡く朱が滲み、時の流れがそこに封じられている。
表面の焦げは焦がしではなく、香りの記号。中の柔らかさは生ではなく、温度の余白。火入れとは、焼くことではなく、導くことなのだと、撮りながら思った。
ルッコラの緑、削られたパルミジャーノの白。バルサミコの陰翳が、皿の余白に静かに広がってゆく。すべては語りすぎず、引きすぎず、ちょうどいい“間”を保っている。
料理の写真は、味を写すものではない。だが、この一皿に関しては、味そのものより、そこに宿る気配や気骨を、どうしても残したくなった。
火と肉と人の対話。そこに言葉は要らず、ただ、静けさだけが満ちていた。
この常陸牛のタリアータは、食べられる余白、触れられる静謐だった。
店名は語らない。ただ一つ、茨城に“余韻を味わう”場所がある──そう記しておきたい。
店長:平野慎一
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