草加市のラ・クレアシオンのブログ
2025年10月3日
浅草・雷門のすぐ脇に暖簾を掲げる老舗、三定(さんさだ)。創業は天保八年、江戸の人々に愛され続けた日本最古の天ぷら屋のひとつである。時を越えた暖簾の重みは、浅草の街並みに見事に溶け込み、店先に立つだけで歴史を感じさせる。
今回、ぴあMOOK「東京老舗名店」掲載用の撮影で、この三定の「上天ぷら」をカメラに収めた。皿に盛られるのは海老二尾と小さなかき揚げ、そして野菜はなす。奇をてらわず、むしろ王道を貫く組み合わせが潔い。
衣はごま油で揚げられ、きつね色を超えてやや濃い揚げ色に仕上がる。これぞ三定の個性。香り高く、かつ深みを帯びた油の風味が、海老の甘さや野菜の柔らかな味わいをくっきりと浮かび上がらせる。かき揚げは小ぶりながらも存在感があり、細かな具材が織りなす食感が楽しい。なすは瑞々しさを残したまま衣に包まれ、かみしめるとじんわりと旨みが広がる。
撮影の現場では、揚げたて特有の質感をどう伝えるかに心を砕いた。油の艶、衣の細やかな凹凸、海老の張り、なすの紫の冴え。ひとつひとつに光を当て、影を整え、皿の中に宿る「出来た瞬間の力」を引き出そうと試みた。料理は動かない。しかしその質感には、つくり手の技と時間の気配が刻まれている。それを写すのが、料理写真家の使命でもある。
観光客で賑わう浅草にあって、三定は今なお地元の人々に支持され続ける。雷門をくぐり、この一皿に向き合うと、江戸から脈々と受け継がれた「天ぷら屋の矜持」が確かに感じられる。撮影を通じて、その一端を垣間見た気がした。
店長:平野慎一
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